鈴木作品の故郷
谷道明氏
 鈴木家には数匹のネコと美智子さん(奥様)と鈴木憲夫先生がお暮らしである。

 ネコ諸氏はどちらも気高く個性的で「自分」を堅持していて、容易に手を触れることは許されない。なかでも、銀色モップ(失礼な!)の「ししまる」氏は最上級で、その美しさに魅了された私は思い余ってつい追いかけ回してしまうのだが、すぐに姿を消されてしまう。そして「リボンちゃん、マオちゃん、ポッポ、チコちゃん」の各氏にヒゲで笑われる、「気持ちが伝わってないんだもんね」。そうか、彼らはピアノが奏でるこの世で初めてのメロデイに包まれて、日々思索に耽っている。
 人間の言葉や態度を尻目に、音楽はスルスルと彼らとの垣根を越えていたのだった。私「歌にしてお願いしてみるか・・・」それができたら、もっと嫌われるだろう。

 10数年前の雪の日。学生だった私は、ふた月ほど前に関西で演奏した「永訣の朝」の報告のため埼玉の駅に降り立った。そこで、かつて自分達と同じ年頃に「永訣」を作曲したという人物に初めてお目にかかった。挨拶もそこそこに、緊張していたら雪玉が飛んできた。美智子さんである。突然の宣戦布告に目は点になり、ただ立ち尽くすのみで時が過ぎた。美智子さんガッカリ、私は若かった。

 別の日。鈴木家ではイタリアンに凝っていて、かなり本格的な取り組みが披露された。ピザ生地は念入りに伸ばされ、スパゲッテイと共にシンプルな中に極意を知るレシピが熱く語られた。招集された一同は、美智子さんと先生の飽くなき挑戦に脱帽し、味を脳裏に焼き付けるようにして完食。その直後、お二人「ピザソース塗るの忘れた!」。
 また別の日。炭火焼肉である。とかく身体の大きい若者や柔道経験者といった腕力系が招かれていて、号令により招集一同、想像を絶する量の大根、玉ネギ、人参オロシを製作する。この大量オロシが他にはない独特のタレになるという。かくして焼き開始!肉の味を憶えていない。

 池袋のカニ食べ放題の店で、大皿にひとつの筈のカニ用ハサミが一人にひとつずつ用意されたのはひとえに美智子さんの交渉力のお陰だ。上田では雪の線路上を歩いている際に先生の携帯が鳴った。着メロは「美智(子)との遭遇」のテーマだった。浅草で日本酒をたらふく飲んだ先生が熱唱したのはフォーレのレクイエムであった。永年の研究の結果、女性の「だって・・・」に唯一立ち向かえる男性の言葉は「お願い!」だそうだ。酒宴翌朝の野菜ジュース&グロンサンの特製ドリンク、諏訪湖徒歩一周、壁紙貼り完成式典やカラフルな茶碗、シャレの連続砲火、お好み焼きや柚胡椒の味くらべ・・・全身が点になる出来事が山ほどある。

 鈴木作品は、こうした自由で奔放で自然な営みを故郷としている。そこに埋蔵されている膨大なエネルギーは、対象や時を問わず全方向に自噴を繰り返していて、その飛沫を浴びた人々は一様にどよめき、絶倒し、ヤケドし、鼻血を出したりする。しかし先生曰く「なーんにも考えないでやってみなさいよ」。眼の前に大自然が拡がる。数ある作品はその種子こそ運命的に蒔かれたとしても、このエネルギーと重い苦しみによって結実し産み出されているということを体得した。音に露出しているのは作家そのものであった。

 今、この時間帯にも、新しいテーマの解読に柔軟かつストレートに力を注いでおられることだろう。

 さて、文頭のご紹介順は鈴木家の中でも詳しく自由度の強い順番であるのだが、小者の私などは、まだ先生から数えて500番くらいは後に位置している。その差を少しでも縮めるためにも、またまたお会いしたいと希望するばかりである。

            元、関西大学混声合唱団「ひびき」指揮者
               現、響友会合唱団/指揮者

 (「ひびき」そして「響友会合唱団」は本ホームページ「仲良しー合唱団紹介」のコーナーでもご紹介しています。是非、ご覧下さい。)
「関西大学混声合唱団ひびき」http://page.freett.com/hibiki2/index.htm
「響友会合唱団」http://www2u.biglobe.ne.jp/~hibitomo/