想い出
         初演:1999年10月1日/川口リリア音楽ホール
         演奏/潮の音(第2回コンサート・委嘱)
         指揮/潮千代子  ピアノ/宇都瑠音

 「想い出」は指揮者・潮千代子先生の「音楽生活30年記念コンサート」のために作曲しました。詩も一緒にということで、それはそれで嬉しいことなのですが、詩を作ることは曲を作る以上に時に労苦を伴います。が、喉元過ぎれば何とやらで、詩もお願い!などと言われると嬉しくてついひとつ返事でお引き受けしたのでした。

 潮先生にはこれまで多くの作品を演奏していただきました。常に真摯に作品と向かい合い、いつも音楽的な演奏を聴かせて頂いていました。その先生のお祝いにふさわしい曲を、と考えますとなかなか決まらず、時間だけが過ぎてやや焦り始めたある日のこと、いつものように散歩をしていて突然パズルでも解くように全体の詩がつながりました。
「人はみな想い出作って生きているんだ」・・・・、私には本当にそう思えます。

 既に亡くなった近しい知人、友人、親戚など、を思いだせば甦ってくるのはその人たちとの「想い出」です。また今私たちは、いろいろな方々と関わりあって生きています。それはややもすると当たり前のことのようにも思えてしまうのですが、一期一会の不思議、想い出は現在も尚、進行中です。
感傷と捉えられればたしかにその通りです。しかし「人はみな想い出作って生きているんだ」と、という想いがあればこそ、人との関わりの中でそれがさらに豊に、かけがえのないものとして、今の我々の生きる縁(よすが)になれば、という願いもこの詩には込められています。 

          
「想い出」/詩:鈴 木 憲 夫

人はみな想い出作って生きているんだ
 想い出はいつまでも心の奥で消えることはない

〜〜〜〜〜中略〜〜〜〜〜

  森深くたたずむ一本の木に
   小鳥が巣を作り
   風に運ばれた種子(たね)が根をおろし
   虫が棲む家とし
   小さな生き物たちが実をついばみ
  
  雨の日も風の日も
  ともに語らうように身を寄せて・・・
  何という出会いの不思議
  何という生命(いのち)の不思議
  その同じ不思議さで私たちは出会い
  そして同じ時間を生きているのです

人はみな想い出作って生きているんだ
 想い出はいつまでも心の奥で消えることはない

想い出の数だけ出会いがあり
 想い出の数だけ別れがあり
想い出の数だけあなたがいる 
 想い出の数だけ私がいる


                 新編「茜の空に」(カワイ刊)に収録。
                          2003年9月21日
(尚、詩と曲の冒頭の一部は「ベルウッドの森」内「詩集」でご紹介しています)


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