詩集その2
ここでご紹介する詩は未付曲のほんの一部です。
作曲を目的に書いた詩もありますが、気軽に書いたものもあります。
いづれ作曲するかもしれません。
どなたかよろしければ作曲して下さい。

1.稲穂が揺れて
2.髭
3.ネコ物語「誕生日の知らない子猫たち」
4.ネコ物語「ネコジャラドン」

5.鬼ー鳥翔成(かむあがり)
8.家族/運動着

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1.稲穂が揺れて

秋 稲穂が揺れて
 秋 稲穂が垂れて

 深々とお辞儀をしているヤツ
 まだピンと空を向いているヤツ
 中途半端なヤツ
 人間でいうなら
 オレはどんな稲穂のヤツか

稲穂はいい
糧となることを
迷わず 
嬉しそうにしている

秋 稲穂が揺れて
 秋 稲穂が垂れて


2.髭

無精にのびた髭に
いつしか白いものが混じってきた
四十八年の
私の進化と退化とを繰り返した
細胞のなれの果て

だが妙に懐かしさを感じさせる
鏡の中の自分の顔は
かつての父の顔だったり
祖父の顔だったり

繰り返している
辿っている
今私の内で
祖父たちから受け継いだ
生命の道を


3.ネコ物語「誕生日の知らない子猫たち」

空から いのちのかけらが降りてきて
小さな 小さな子猫になった

公園のはじっこのベンチの下で
 子猫が三匹鳴いていた
 白ネコ子猫と トラネコ子猫
 三毛ネコ子猫が おなかをすかして鳴いていた

いつ どこで 生まれたのか
誕生日の知らない子猫たち
ネコはきっと人になにかをもたらすために
天から降りてきたのにちがいないのだ

夕暮れも近い公園のかたすみ
女の子がやってきて 白ネコ子猫を拾っていった
トラネコ子猫は男の子に拾われて
三毛ネコ子猫は・・・まだ・・・まだ・・・
でも  もうすぐ おじいさんがやってきて
三毛ネコ子猫を拾っていくことだろう
シーンと静まった公園に
三毛ネコ子猫が一匹
おなかがすいて 鳴き疲れて 
丸くなって 眠ろうとした時
・・・・・・・・ほら おじいさんがやってきた

またひとつ 新しい物語がはじまる


4.ネコ物語「ネコジャラドン」

ネコジャラドン
  ネコジャラドン ドン
     ネコジャラドン
学校ちかくのカドのニクヤのネコがこわい
からだは犬のように大きくて
そのうえ顔はキズだらけ
その顔で私をにらむの
ネコの名前は「ネコジャラドン」

ある日 ネコジャラドンの夢をみた
ネコジャラドンは 何と正義の味方
ネコジャラドンの背中に乗って空を飛ぶ
イジメッ子をやっつけて
虹のはしまでひとっ飛び
山を越え 海を越え
地球をひとまわりしたころ
ネコジャラドンから落っこちて
目が覚めた

ともだちは いつものように
ネコジャラドンを怖がっていたけれど
それから私は 
ネコジャラドンが
好きになった

5.鬼ー鳥翔成(かむあがり)

茫々たる野のはづれ
人の住家の離れたところ
鬼の棲むという小高い山のその一角に
こんもりとした小さな林があった

ある日 少年は鳥を追って林に迷い込んだ
林の木たちは一斉にざわめきたち
少年の行く手を遮った
ーここに踏み入ってはならないー
少年はたしかにその声を聞いたように思った
しかし少年は鳥が欲しかった
空を羽ばたく鳥が欲しかった
少年は蜘蛛のように網を張り
蜘蛛のようにじっと獲物を待った
草むらに潜む少年
林は身を震わせて すぐにここを去るがいい言った
風は少年の心のままに鳥を煽り立てた
かかった!
網の中で小さな鳥が羽根をばたつかせている
少年は小躍りして鳥を捕えた
 手の中でもがく鳥
 逃がすまいと両手でおおう少年
ドク ドク ドク ドク と 鳥の鼓動の高なりが
しだいに少年の心を凍らせていった
 鳥の不安にみちた喘ぎが
 少年の汗ばんだ手の中に
 冷たくしみていく
鳥がそんなに欲しかったのか!
 いや そうではない
鳥を獲るのがそんなに面白かったのか!
 いや そうではない
得体の知れない何ものかが
少年の心にそれを命じたのだ
再び 戻ることのない手のぬくもりの中に
少年は知った

 も う 逃 れ ら れ な い

夕暮れの林のひとすみ
鬼のつぶやきが聞こえる

「マタ ヒトリ オニ ガ フエタ」


6.家族/運動着

あれはおまえが小学5年のときの運動会
かあさんが死んだ翌年のことだ
明日が運動会という前の日に
おまえの黄ばんだ運動着を
おとうさんは洗濯板にこすりつけ
何度も 何度も洗ったけれど
その黄ばんだ運動着はなかなか白くならなかった

運動会の日
青い空の下で
元気に動きまわる大勢の子供たちの中から
私はすぐに おまえを探すことができたよ
白いまぶしい運動着たちの中に
ポツリとひとりだけ黄ばんだ運動着を着ていたおまえ
でもおまえの顔は輝いていた

青い空も
白い運動着も
黄ばんだ運動着も
みな カゲロウのように 涙でかすみ
ひとつになって私の目に映ったとき
私は たしかになにかに祈っていた
かあさんが
私のとなりで一緒に見ているような気がした


                     
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