諺(ことわざ)
 「嘘をついたら地獄に落ちる」かたや「嘘をつかねば仏になれぬ」また「嘘も方便」、更にまた「嘘から出たまこと」等々・・・「嘘」という項ひとつ取って見ても諺には多くの、それも時代を経ながら親から子へそして孫へと口々に伝承され積み重ねられた日本人の知恵が込められている。諺は江戸時代になって武士階級の儒教に向こうをはったいわば庶民の作りだした社会科の教科書だったわけだ。人生教訓や処世訓、自然と人間との関りあいなど、一見ユーモラスな中にもそこには朗らかな「人間教育」が謳われている。他にいくつか例を上げると「口は災いのもと」と言いながら「口は重宝」。「二度あることは三度ある」かたや「三度目の正直」更に「仏の顔も三度まで」等々限りがない・・・・。
 この春に家内のピアノの生徒が高校に入学した。新学期早々こう言われたそうだ。「大学受験まであと2年9カ月」と。それを聞いて寒々とした思いがした。人が人として形作られるのは十七、八歳くらいまでと言われている。「桃栗三年柿八年」の例で言うなら十七、八年で人としての元が出来上がるということになる。あとは本質的には変わらないそうだ。人生で最も大切な時期と言える。諺の世界ならきっと多面な「生きる」ということを教えてくれるに違いない。そういう朗らかさ、楽天性の響きがもっと今の時代に欲しいものだと思う。
               東京新聞ショッパー(埼玉地域)2000年4月号より