一灯照隅ーいっとうしょうぐうー
 「躾(しつけ)」という字は身を偏にし「美」と書く。身を美しく動作も美しくするということだ。それは生き方をも美しくするということに通じる。字そのものの中に思想がある。夢さえ感じる。何という想像力かと思う。ちなみに「儚い(はかない)」とは人の夢と書く。
 人の素晴らしさとはそういう想像力にあるのだろうと思う。一人一人の人間の想像力が、その積み重なりが今の世界を作ってきたとも云える。人が多く集まれば群れができる。その「群れの思考」でこれまで果たして人は幸せになれたかといえば疑わしい。常に個々に依る発見、発明、更に創作により人は恵みを得たのだと思う。たしかに群れにいれば安心できる。が、群れが生みだすのは差別や競争。およそ人間として穏やかに生きれる面とは異なるところで触発されるものばかりのような気もする。
 「一灯照隅(いっとうしょうぐう)」という語がある。それはたとえ一本のロウソクでも身の周りを照らせば明るくなる、それを万人が照らせば「万照」、悉く世界を照らせば「遍照」というものだ。全ての始まりは常に小さなところからだ。言い換えれば個が、個の行動が、そして想像力がいかに大切なものであるかということが云える。個とは自分、ロウソクに例えれば世の隅をわずかだが照らしている。まずは身近なところから第一歩を。さしづめ私は締め切りも差し迫っている作品を早く完成させないと・・。
               東京新聞ショッパー(埼玉地域)2000年6月号より