二人の生徒       12.7                         

 今日は私のピアノの弟子ヨシタケ君にとって記念(?)の日となりました。私には二人のピアノの生徒がおります。一人は中年を過ぎたいつもくたびれているオジサン。博学多才、美術に関しては生き字引。10年前にウチに来始めた時は「浦和のグレン・グールド」を目指すなんて言ってたけど・・・。
 もう一人は小学6年生のヨシタケ君。家ではピアノを練習してこない、「のどが渇いた!」と部屋に入ってくるなり水の注文(本人の名誉のために申しますがいつでも、ということではありません)、時折ピアノを弾きながらオナラもする。生徒はその二人だけ。先生が先生だけに二人ともなかなか上達しません。申し訳ないことです。中年のオジサンはレッスンに気が乗らないとお茶飲み話だけして帰ります。ヨシタケ君の両親は映画関係ですので彼も映画には一家言持っており、私も映画好きですからつい彼に乗せられ、レッスンの大半が映画の話で終ることもあります。

 その彼のために今年1月から100曲目標にと練習曲を作り始めました。初見の練習曲です。4小節から8小節程度のものです。年内に終了したら何かプレゼントをやろう、と。それが今日終ったのです。そのプレゼントとは「一体、何か・何か」ときっと楽しみにしていたにちがいありません。当のご本人は「ゲーム」か何かを期待していたかもしれません。ですが私はそんなにサービス精神旺盛ではありません。落胆のタメ息の出るものを(笑)、と実は前から楽しみに用意していました。100の練習曲を彼のために自分の仕事の合間にコツコツと書いてきたのですが、彼もコツコツと100曲を積み上げてきたわけです。まずは良くやった、と今日は褒めたところでした。

 音楽というのは「見えない」ものです。音楽に限らず今の自分という姿さえ見えないものです。振り返ってみて初めて見えるものかもしれません。この一年、ドタバタして生きてきた私の姿もきっとそうです。中年のオジサンもそしてヨシタケ君も上達、という面からみればさほどではないかもしれません。でも確実にオジサンはバッハのインベンションを2曲もレパートリにし、かのヨシタケ君はこのところ与える曲も初見練習のせいか、前よりも譜読みも早くなりました。

 さてヨシタケ君へのプレゼントですが、それは私のピアノ曲集「こどもの舞曲集」。余計なことに私のサインまで入れて。彼にとってはさぞや落胆、さらに迷惑なことでしょう。「ハイ!」と私がその楽譜を手渡した時、一瞬、彼の目が凍ったことを私は見逃しませんでした。「ウッフッフッフッ・・・・(笑)」。