97年に志水隆先生指揮・杉並児童合唱団の演奏で新作「こころのてんきよほう」(詩・片岡輝)を録音していただいたことがありました(BMG・全日本合唱普及会制作の新・合唱講座=ジュニア版に収録)。その時のピアニストが津嶋麻子さんでした。
津嶋さんは下関のご出身。お母様が下関少年少女合唱団の当時事務局をされていたご縁で、この「みすゞこのみち」の委嘱を受けたのでした。津嶋さんとこの作品について初めての打ち合わせをしたのが、98年のたしか4月頃、新宿の南口の喫茶店ででした。数冊の金子みすずの詩集をもって見えられ、そこからスタートをしたわけです。
詩の選択は私に委ねられ幾百の詩の中から6つの詩を選びました。中には好きで作曲したいものも他にあったのでしたが、全体の構成上やむなく見送りにしたものもありました。「草山」は指揮者の原田博之先生が「私この詩好きなんです」ということで加えたのですが、結果的にこの曲が加わったことで組曲としての雰囲気が変わりました。偶然と云ってしまえばそれまでですが、何かしら作らされたという思いも、またしています。
初めに「雪」を作曲。なかなかとっかかりが出来ないでいた時、ちょうど雪が降りだしたことがありました。家の外に出て、空を見上げたことを覚えています。まるでウソのような本当のことです。「雪」の次は「月と泥棒」。この詩には挿し絵がありました。十三人の泥棒が影絵のように横一列に並んでいる絵です。その絵が楽しくて作曲の時はピアノの前に置きながら作曲したものです。
98年の11月から翌年の6月まで全7曲を、幾度も他の仕事の関係で中断しながらもおよそ半年以上の月日をかけて作曲したことになります。
この作品の第一曲目「このみちI」、そして終曲「このみちII」は同じ曲です。しかし「このみちII」ではソロが入ります。同じ曲をどうして違うスタイルにしたかというとそれなりに理由があります。組曲のタイトルを「みすゞこのみち」としたように、この詩はみすゞさんの「声」そのもののように私は感じました。うつむくことばかりの多かったであろうみすゞさんの現実の中で、常に空を、雲を遠くに仰ぐような思いでみすゞさんは生きてきたのだろうと思います。
「このみちII」のソロは、まるでみすゞさんその人が歌うかでもするように、宗教曲をイメージしました。いわば鎮魂歌です。みすゞさんへの。
この作品はたんに組曲ではなく「合唱ファンタジー」となっています。それはこの作品のきっかけを作った下さった杉並児童合唱団指揮者・志水隆先生の命名によるものです。
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「みすゞこのみち」初演の後、原田博之先生と控え室で。
99年11.23/下関市民会館大ホールにて |
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